猫の嫁様

前へ ホーム 上へ

 

ろばたばなしの会の会員の方)じゃ今度は、北陸の方のお話しで猫の嫁様。
 むかしあるところに貧乏で貧乏でどうしょうもない兄さがおったと。親が残してくれたものと言うたら、足がつんでるような小さなぶっかれ家に、猫の額ほどの山の畑であった。兄さは毎日その山の畑を耕しておったが、ある日のこと寒いなと思っているうちに、雪がちらちら降りだしてきた。兄さが日暮れて山から下りてくると、猫が一匹、にゃーお、にゃーおと鳴きながらさまようておる。やれかわいそうに、兄さが立ち止まって見ておると、隣の家の長者どんの一番下の息子が門から飛び出してきて、その猫を抱いて家の中に戻っていった。兄さはよかった、よかったと家に帰ってそのまま藁布団の中にもぐり込んだ。
 ところがその真夜中、なにやら怒鳴り声がする。なんだと思うたら、長者どんが「働きもしないでただ飯食うようなものは、ここに置いとくわけにはいかん」がらりと門の開く音がして、何かがすとんと外に放り出された。するとその後で、にゃお、にゃおと鳴く声がする。兄さは「かわいそうに、こんな寒さの中で凍え死んでしまうがに」と急いで寒いのをこらえて外に飛び出すと猫を抱いて戻ってきた。猫は兄さの懐の中にもぐり込んできた。「長者どんの家ならば食べるものがいっぱいあるだろうけど、家には満足に食べるものも無いんだ。それでも良ければここにいるが良い」そう猫に言うと、猫がにゃーおと言うた。
 兄さはそれから猫に食べさせるために、魚を釣ってきたり、一生懸命働いて、少したまると猫のために美味しそうなものを買ってきてやったりした。そして、そういうことをしているうちに、だんだん兄さは毎日が楽しくなってきた。
 ある日猫を膝の中に入れながら話しかけた「なあお前、こんなに利口なんだけど石臼をひいてくれたら俺はどんなに助かるかなあ」すると猫がにゃおんと鳴いた。「そうかそうかお前もそう思うか」そう言うて次の日、兄さが山へ働きに行って、それから夕方戻ってくると暗ーい家の中から何やらごとごと音がする。はて誰もいないはずだがな、そう思いながら戸を開けて入ってみると、何と猫が石臼を回して粉をひいておった。「そうか、そうかお前石臼がひけるのか」兄さは喜んでひいた粉で団子をこしらえてその日は食べた。それからというもの毎日猫が石臼をひいて粉を作ってくれるので、だいぶ兄さは楽になった。一層畑仕事に精出したので、いくらかお金もたまってきた。
 そしてまたある日のこと膝の中に居る猫に「本当にお前は利口な猫だ。いっそ人間になってくれば良かったのになあ」そう言うた。そしたら猫がにゃーおと鳴いた。「そうか、そうかお前もそう思うか」そう言うたとたんに猫が口をきいた。「少し私に暇をくれてがんせ。人間になれるよう神様にお願いに行きたいと思います。どうぞ伊勢参りに行かせて下さい」兄さは初めびっくりしたけれども、石臼もひかれるほどの利口な猫だから口くらいきけたってあたりまえだ。そう思うて今までためていたお金を財布に入れて猫の首に巻付けてやった。「さあ、じゃあ伊勢参りに行ってこい。途中犬や狐に食われるんでないぞ。気を付けて行きな」そして猫は出かけて行った。
 猫が行ってしまうと兄さは淋しくて淋しくてたまらない。毎日がつまらなくなった。ぼんやりしながら何日も過ごしておった。今ごろ猫のたまはどのあたり行ったかな。お伊勢さんに無事に行けただろうか。途中犬や狐に噛みつかれたりはしないだろうか。そんなことを思うていたある晩のこと「今晩は、ただいま戻りやんした」そう言うて入ってきた娘がいる。色が白くて目がぱっちりした奇麗な娘だった。兄さはびっくりして「この家には、ただいまと言うて帰ってくるもんはおらん。人違い、家違いではないか」そう言うとその娘は「いえ人違い、家違いではありません。戻って参りました」そう言うて財布を見せた。それは兄さが首に巻付けてやった財布だった。「あーお前は猫のおたまか。人間になって戻ってきたのか」そう言うて兄さは喜んで家の中に入れた。それから二人は夫婦になって、二人して一生懸命働いたので、その村でも評判の長者になったということだ。おしまい。

 

前へ ホーム 上へ

※当ホームページは、平塚市博物館が運営しているわけではありません。情報展示研究会が会の責任において製作しているホームページです。よって、このホームページの記述に対して、平塚市博物館がいかなる責任、義務を負うものではありません。
 何か疑問等ありましたら、こちらまで。 メールはこちらまで