(ろばたばなしの会の会員の方)次は、兵庫県のお話しで、兎とひきの餅争い。ひきというのはひきがえるのことです。
むかし、むかしのおおむかし、あるところに兎とひきがえるがおって、ひょっこりと出会った。2匹は、「何かうまいもん食いたいなあ。餅でもついて食べようか」ということになった。そこで、ひきは田んぼに行って餅米を集めてくるし兎は臼や杵を見つけてきた。ところが兎は二人で分けあえば半分しか食われん。なんとか独り占めしたいと考えて、「こんな平たいところで餅をついても、面白うない、高い高い山の見晴らしの良いところでつこうやないか」と言い出した。ひきも「そらあ、よかろう」ということになって、2匹で餅米や道具を持って、山へ上がった。
やがて、餅米が蒸しあがると兎がぺったんこ、ぺったんことつき、ひきは手に水をつけて、ちょい、ちょい、ちょい、ちょいと返したから、うまそうな餅がつけた。兎は「ひきどん。さあ餅がつけたけど、このまま半分に分けて食べるんじゃ面白うないで、臼を山の上から転がして先にたどり着いたもんが、餅を食うことにしよう」と言い出した。するとひきは心配になって「そんなことしたら、あかんじょ、わしは足が遅いで、きっと負けるからいやだ」と言った。すると兎は怒って「お前、わしに逆らうんか」と杵を振り上げた。ひきはここで殺されたらどうもならんと怖くなっていやいや承知した。
それから2匹は、一緒に臼を一二のさーんで転がすと、臼はごんごろごんごろ転がって落ちていった。兎は臼を追っかけてたーっと山を駆け下りた。臼がちょうど麓まで転がって止まったので、兎はひきが下りてこない間に先に食べてやろうと臼の中を覗いてみたら、すっからかんだった。「しもうた餅はどこで落ちてしもうたんやろ。早く上がらんとひきどんに食われてしまう」と兎は餅を探しながらぴょんぴょん山を登っていった。一方、ひきはのったら、のったら、のったら、のったら下りていたところが、ねむのきにぽてんと白い餅が引っかかっていた。ひきはこんなところに餅が落ちとる、こりゃありがたいとがんぶりがんぶり食べていた。
そこへようよう兎が登ってきた。見ればひきがなんともうまそうに餅を食べている。けれども兎は、先に見つけたもんが餅を食うことにしようと自分が言い出したものだから、俺にもくれんかいと言いかねて、ひきが食べるのを眺めていた。その時、ねむのきの根元に餅がぽてーとたれてきた。「ひきどん、ひきどんこっちのほうがたれよるで」と兎が言うと、ひきは「あーたれよる方からたーべましょ、おいしいおいしい」と言って食べた。兎がまた「あっひきどん今度はそっちの方が下がりよるで」と言うと、ひきは「あーさーがる方からたーべましょ」と言って兎の目の前でうまそうに食べて、腹がぽんぽんに脹れてしまった。
それからひきは大きなお腹をひきずって、のったら、くったら、のったら、くったら帰っていった。兎は「あーあ、あほなことしたもんや、あんな事言わなんだら、二人でおいしゅう食べられたのに」と後悔しながら、ねむのきの根元にくっついている餅をぺろんと食べてしまった。
それからひきは大きなお腹をひきずって、のったら、くったら、のったら、くったら過ごすようになって、兎はねむのきをかじるんだって。おしまい。
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