(ろばたばなしの会の会員の方)これはね、伊豆の方に伝わっているお話しで、もうあの終わってしまいましたけどね、節分の話し
むかしむかし、何日も何日も雨が降らない日が続いて、田んぼや畑はすっかり枯れ果ててしまいました。野菜も稲も枯れ枯れになって、もうすっかり駄目になりそうでした。お百姓さん達は外に出て「神様どうか雨を降らせて下さい」とお祈りしましたが、効き目がありませんでした。
ちょうどその頃、その村に娘を三人持ったお百姓がいました。ある晩のこと、そのお百姓の家の戸を、どんどん、どんどん、どんどんと叩く者がありました。お百姓さんが誰だろうと思って出てみると、外には大きな鬼がでーんと立っていました。そして「やいやい、雨が欲しいかい。雨が欲しければ降らせてやるぞ。その代わり娘一人嫁によこせ」お百姓さんは考えました。娘一人嫁によこせと言ったって、鬼の所へやったら食われてしまうかもしれません。困ったなあ、どうしよう、でも雨は欲しい。とうとうお百姓は思い切って言いました。「雨を降らせてください。そしたら娘一人嫁にやります」すると鬼は喜んで「そうか、本当だな。じゃあ雨を降らせたら迎えに来るからな」そう言って鬼はどすん、どすんと帰っていきました。
次の日雨が降りました。ざーざー、ざーざー三日三晩降り続いたので畑の野菜も稲も、すっかり元気になりました。お百姓達はみーんな外へ出て良かった良かったと大喜びです。でも、あの三人の娘のいる家では、みんなしーんとしょんぼりとしていました。そのうちに鬼が迎えに来る。お嫁入りの支度をすっかりしてから、お母さんはその嫁に行く娘に荷物を渡そうと思って用意していました。さて、どの娘を嫁にやろうか。お父さんが一番上の娘に聞くと、一番上の娘は「嫌ですよ、鬼に食われてしまうなんて、ごめんだわ」二番目の娘に「お前、嫁に行ってくれるか」と聞くと「姉さんが嫌なものを、何で私が行くもんですか」三番目の娘はお福といいました。三番目の娘は「お父さんが約束したんですから、私が行きましょう」そう言って、鬼が来るのを待ちました。
鬼は威張ってやってくると「嫁迎えに来た」そう言って荷物と娘のお福を背中に抱えると風のように走りだしました。お福はその時、お母さんから袋に入った菜種をもらっていました。その菜種を少しずつ背中に負われながらこぼしていきました。鬼の家は山の奥のそのまた奥の奥にありました。人間なんか今まで行ったこともないような山奥でした。でも家に着いてみると鬼は意外に親切でした。お福が「あれが食べたい」と言うと、その食べる物を持ってきてくれるし、「寒いから着物が欲しい」と言うと、着物を持ってきてくれました。でもだーれも話す相手はいません。お福は寂しくてたまりませんでした。鬼は昼間はどこかへ出かけて行って、夜になると帰ってきます。あんまり山奥なので、獣も鳥もいませんでした。
ある日、お福が外に出て眺めていると、なにやら黄色いものが見えました。何だろうと思って見ると、お福が鬼に背負われて来たとき蒔いてきた菜種が芽を出して花を咲かせたのでした。見ると黄色い花の列が山から山へと続いています。あっあの花を辿って行けば私の家へ帰れるんだ。そう思ったお福は次の日鬼が出掛けると、すぐに黄色い花目がけて走りだしました。走って、走って、走って、走って夕方日暮れ前に家に着くことができました。家中お福が帰ってきたので、みーんな喜びました。「あぁよく帰ってきた。無事だったんだね」けれどもそのうちにきっと鬼が来るでしょう。鬼が迎えに来たらどうしたら良いだろう。みんなはお福を押入の中に隠しました。
鬼はどすん、どすんと夜やって来ました。そして大きな声で叫びました。「嫁を返せ、お福を返せ」ちょうどその時お母さんは大豆を煎っていました。お母さんはその煎った大豆を一掴み掴むと出ていきました。そして鬼にその煎った大豆を渡して「この大豆を蒔いて芽が出たらお福を返しますから、迎えに来て下さい。芽が出なければ駄目ですよ」すると鬼は「本当だな、芽が出たらお福を返すのだな」そう言って戻っていきました。
鬼はずーっと来ませんでしたが、その次の年同じ頃にまたやって来ました。そしてまた「お福を返せ、嫁を返せ」と怒鳴ります。お父さんが出ていって「豆の芽は出たか」と聞きました。すると鬼は豆の芽は出ていなかったので、しょんぼりと帰っていきました。お父さんはその背中に「鬼は外、福は内」と言いました。それから毎年鬼はやって来ましたけど、煎った大豆は芽が出るわけがありません。毎年毎年鬼は「芽は出たか」と聞かれると、しょんぼりと帰っていきます。そのたんびにお父さんが「鬼は外、福は内」と言って大豆を撒くんだそうです。それで、悪いものを追い払うお祭になったということです。おしまい。
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