食わず嫁

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ろばたばなしの会の会員の方)昔、この辺りが大住郡と言われていたむかーしのお話し
 大住郡の土屋という所は水呑百姓ばっかりでみんな貧乏であった。だから若者達は「飯食わねえ女がいたら嫁さんにしたいもんだ」と言うておった。でもいつのまにかみんな嫁さん迎えてしゃきしゃきと働いておったがその中に一人だけいつまでたっても一人者でいた男がいた。みんなが「どうだ嫁さん迎えたら」と言うても「いんや、飯食わねえ女じゃなきゃ嫁にできん」そう言うておった。
 ある時男が山の畑の仕事を終えて夕暮れ山を下りてくると、誰かがひたひたひたひたと後を付けてくる。何となく恐ろしく思ったので、そのままどんどん足を速めて村はずれまで来たところで振り返ってみた。すると美しい女が立っておって「私は、米も食わねえし、水も飲みません。どうぞお前さんの嫁にしてくれろ」と言う。男は願ったり叶ったりだと喜んで家に帰って嫁さんにした。本当に女は何も食わなかった。
 しばらく経つと男は心配になって「おめえ、俺の嫁になったんだから、ちっとなら飯食ってもいいぞ」そう言ったけど嫁さん黙って首を振っておる。またしばらく経った。男はまたまた心配になってきた。「もしも飯食わねえで病気になったら、医者にかからねばなんね、金かかるとんだ物要りだ。どうかおめえ少しでいいから食べてくれろ」でも嫁さん笑って首を振っとる。またしばらく経った。男はだんだん気味が悪くなって来た。蚤や蚊だって血吸って生きとるのに、こんなに物食わねえでいて丈夫な訳がねえ。もしかすると化け物かもしんね」そう思った男はある日「秦野の十日市場へ今日は行ってくるから、弁当作ってくれろ」そう言って朝早く出かけていった。そして頃合を見計らってそうっと家へ戻って来て、隙間から家の中を覗いておった。すると嫁さんは「やっと厄介ものがいなくなった」そう言うて、大きな五升炊きの釜を引っ張り出すと、それにいっぱい米を研いで火にかけた。それから一番大きな鍋に水をいっぱい入れて火にかけて味噌汁を作った。男は「はていったい誰に食べさせるんだろう」そう思うておると、嫁さんは炊き上がった飯をしゃきしゃきしゃきしゃきとみんな握り飯にして戸板の上に並べた。それから髪の毛をぱらりとほどいた。すると頭の中に口があった。嫁さんはその握った握り飯をほれ食え、やれ食え、ほれ食え、やれ食えとぽんぽんぽんぽん頭の口に放り込んだ。それから、やれ飲め、それ飲め、やれ飲め、それ飲めとじゃーじゃーと味噌汁をおたまですくって入れた。そして見る間に、たくさんあった握り飯も大鍋の味噌汁も無くなってしまった。するとまた奇麗に髪を結い上げて元どおり奇麗な嫁さんになって、すまーした顔になった。男はそれを見て震え上がった「やっぱり人間じゃなかった」。そして男は震えながら家の中に入っていった。「ただいま、戻った」「お帰りなさい」そうは言うたものの嫁さん、以外に早く男が帰って来たので、もしかしたら今の見られたかもしれないと思った。それでだんだんと夫婦仲は思わしくなくなってきた。どうにかして嫁さんを追い出したいと男は思っておると、嫁さんの方から「暇くれろ、里へ帰りたくなった」そう言うた。男は喜んで「そうか、残念だけどお前がそう言うなら」と心にも無い事を言って別れる事にした。けど何か嫁さんが去り難くしてるので「何か好きなものがあったら持って行っていいぞ」そう言うと「それじゃ、風呂桶くれろ」そう言う。なんでそんなでっかい物をと思ったけど「ああいい、持ってけ」そう言うと嫁さん風呂桶を持って来て、その中へ震えている男をぽんとつまんで入れて蓋をぱちんとして、担ぎ上げると走り出した。どんどんどんどん山の方へ走っていく。男は桶の中で震えておった。すると途中で「あー久しぶりに重たいもの持ったもんで疲れた、一寝入りするか」と桶を降ろして嫁さんはぐーごーがーごーといびきをかいて眠り始めた。男がそおっと蓋を開けてみると、いい按配に木の枝が一本ちょうど真上に垂れてきとる。男は急いでそれに伝わって木の上に登った。そして隠れて見ておると、嫁さん目を覚まして風呂桶担ぎ上げた。「おう一寝入りしたから軽くなったわい」喜んでまた走りだし「一体この女の里っていうのはどんな所だろう」そう思った男は後を付けていった。すると山奥のまたその奥に小さな沼があって周りを植木がずーっと囲んである。するとお嫁さんはそこに桶を降ろして「おーいみんな出てこーい。人間一匹捕まえてきたぞう。食うべえ」そして蓋をとった。すると男がいない。「やろー逃げやがったな。ようーし明日の晩行って捕まえてくるべえ。だけどそん時、一昨日こいと言わなきゃいいな」そんな事を言っておった。それを聞いた男は急いで家に走り戻ると大力の男を頼んで焼け火箸を持って待ち構えておった。
 次の晩の夜天井から大鍋の蓋ぐらいの蜘蛛がつつーっと降りてきた。そこで男と大力の男は焼け火箸で突き殺してしまった。だから夜来る蜘蛛はいけないから、悪い蜘蛛だから追い払うか例え親に化けて来ても殺してしまわなければいけないんだと。おしまい。

 

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