(ろばたばなしの会の会員の方)坊さまに化けた魚
昔、ある村はずれに大きな沼があった。その沼にはたくさんの魚がいたので村人達は魚を釣っては食べていた。ある時、村の若者が集まって「一匹ずつ釣るのは面倒だ、沼に毒を入れて魚を獲ろう」という相談をした。次の日朝早くから若者達はせっせと毒を作っていた。さんしょうの皮を細かく切って臼でつき、それに灰を混ぜ合わせるのだ。
そこへ旅の坊さまがやって来た。坊さまは若者達が作っているものを見ると「それは魚を獲る毒じゃな。魚を釣っても良いが毒はいかん。毒を使ったら親の魚だけでなく子の魚も一匹残らず死んでしまう。子の魚など獲ったところで食えはしまい。そんな罪深い事はしなさるな」と諭すように言った。しかし若者達は坊さまの言葉に耳を貸そうとはしなかった。「坊さま、心配いらん。ただの一度だけだ。それよりもう昼だから、この団子でも食って行きなされ」と若者の一人が団子を差し出した。坊さまは団子を受け取ると悲しそうな顔をしながら団子を食べた。毒が出来上がる頃には坊さまはどこかへ行ってしまった。
若者達も坊さまのことなどすっかり忘れて毒を持って沼へ行った。そしてみんなで沼に毒を撒いた。まもなく沼のあちこちで一匹二匹と魚が浮いてきた。若者達は夢中になって魚を掴み上げた。面白いように魚が獲れた。夕方近くなり一人の若者が「だいぶ獲れたからそろそろ村へ帰ろう」とみんなに声を掛けた。その時若者達の前に今迄見たこともないような大きな魚が浮き上がって来た。若者達は「これは大きいぞ、まるで魚の大将だ」とはしゃぎながら、その魚を引き上げた。とても大きいのでみんなで分けようということになって、魚の腹を裂いた。すると腹の中から団子が出て来た。「これは昼間旅の坊さまにあげた団子だ。するとあの坊さまはこの魚だったのか」若者達は顔を見合わせ、ぞーっとした。そして気味悪くなって慌てて村へ逃げ帰った。それからというもの若者達は毒を使って魚を獲るものはいなくなったという。??。
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