設計にいかされた考え方

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 さて、どんな点で、原案の手直しが行われたのでしょうか。まず、博物館の持つべき機能を洗い出し、展示空間、教育普及空間、研究空間、保管空間がバランスよく配分されるように考えました。博物館というと展示室にばかり重きがおかれがちですが、展示を支える裏方の部分にも十分なスペースをとらないと、よい活動ができないと考えたからです。たとえば、もとの設計では、収蔵室がわずかに150m2しか確保されておらず、それではまったく足りないのが明らかでした。最終的には5室約360m2が確保されることになりました。
 また、博物館は資料を展示したり保存するという働きを持っています。資料の中には、湿度を嫌うもの、カビや虫がつきやすいもの、色が変わりやすいものなど、その扱いにデリケートな配慮を必要とするものが多くあります。そうした点が、建物の設計にも関係してくるのです。たとえば、展示室は、外光の入るガラス張りで設計されていましたが、それは明るい印象の利点がある反面、紫外線が入って資料の退色を引き起こしてしまいます。そこで、窓のない部屋に変更をしました。特別展示室も同じ配慮をしました。また、収蔵室も消防法の許す限り小さな窓にして、日光が入らないようにしました。収蔵室では、資料の保存条件によって、空調機の系統を変えて、きめの細かい対応ができるようにしてあります。1室は年間を通して、恒温恒湿を保ち、もっとも保存条件の難しい資料を収蔵するようにしました。また、除湿だけを行うようにして、空調のダクトのスペースを保存空間として活用するようにした部屋もあります。
 また、全体的な部屋の配置を考えていく上で、重要な要素に動線ということがあります。これは、建物の中を人や物がどう動いていくかということです。博物館には、いろいろな人と物が出入りしますが、大きな方針として、観覧者の動線と資料の動線を分けるようにしました。
 観覧者は正面入り口から入り、1階2階3階と順次展示を見て、入り口に戻ります。一方、資料は裏手にある搬入口から入り、エレベーターで3階に上がって、工作室でクリーニングやラベルのとりつけをされてから、収蔵室に入ります。このように動線を分けたことで、資料の運び込みのために来館者に迷惑をかけたり、逆に不心得の人のいたずらを防いだりすることができるのです。搬入口は、川舟のような大きな資料を運び込むこともあるので、天井の高さが許す限りの大きなドアにしてあります。
 また、職員の動線も観覧者とは分かれるように考え、その仕事をするスペースは南側に面した居住性のよい部屋があてられました。

※ここに掲載した文章は、開館20周年記念展の際に発行された図録中の 第1章 博物館ものがたり 9.博物館の建物ができるまで です。執筆された浜口哲一先生のご厚意によりここに掲載させて頂きました。

 

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